『手塚治虫の山』

海より山に親しみを感じるワタス。

手塚治虫が山をテーマに、どんな話を書いたのかしら。

興味津々で手に取りました。

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手塚治虫の山』山と渓谷社

「ヤマケイ」から出ているのが、なんかいい感じです。

 

山を舞台に語られる、人間の一生だったり、動物たちの一生だったり。

ブラックジャック』からも1話入っている傑作選です。

 

作品には逝ってしまう命が多く描かれています。

それは人間や動物だけでなく、山だったり、大きなクスノキだったり、機関車だったり。

そして、その命の終わりには、必ずと言っていいほど人間の存在が深く関係しています。

エゾジカがトラックに轢かれる。

軍事施設のために大きな森が破壊される。

老いたクスノキが伐採される。

たくさんのモモンガを育て上げた木だというのに。

 

そんなことを突き付けられると、何だか人間であることが申し訳なく思われてきます。

もちろん色々なことが発展することで、自分も便利で快適に暮らせているのですが、如何せん、やるせない気持ちでいっぱいになりました。

 

読まなければよかったとさえ思った話もありました。

でも最後の最後で救いの手もありました。

それは、自然は人間が思うほど脆くはないということ。

やられたことはしっかり覚えているし、仕返しもしてくる。

でもその力を忘れないでいれば、たくさんのものを与えてくれる。

 

救いのない顛末の数々に、自己救済の感情が導き出した答えかもしれません。

でもこの答えでいいんだと、山の近くにいるとそう思えるのでした。